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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)3951号 判決 1965年3月01日

原告 加藤金太郎

被告 石垣喜重郎 外一五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

被告石垣喜重郎は原告に対し別紙物件目録<省略>第一記載の建物を収去し、同第二記載の土地を明渡し、且つ昭和三一年五月二一日から昭和三六年五月三一日まで一ケ月金七一七円、同年六月一日から右明渡済みにいたるまで一ケ月金八〇六円の割合による金員を支払え。

被告石垣喜重郎以外の被告らは、それぞれ、別紙物件目録第一記載の建物中の別紙一覧表<省略>記載の各占有部分及び洗濯場、炊事場、便所、廓下等の共用部分から退去しその敷地である別紙物件目録第二記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(被告石垣喜重郎に対する予備的請求の趣旨)

被告石垣喜重郎は、買取請求権行使にもとづく買取代金と引換に、原告に対し、東京都大田区馬込町東三丁目七三四番地家屋番号同所七三四番木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅一棟建坪六一坪五合二階五四坪七合五勺の建物につき、売買による所有権移転登記手続をせよ。

との判決を求める。

(請求原因)

(一)  原告は昭和三一年一月二一日国から別紙目録第二記載の土地(以下本件土地という)の払下を受け、その所有権を取得し、同年七月五日所有権移転登記手続をした。

(二)  被告石垣喜重郎は原告に対抗し得る何らの正当な権原なく、別紙物件目録第一記載の建物(以下本件建物という)を本件土地上に所有することにより、これを不法に占有している。

(三)  被告石垣以外の被告らは、それぞれ本件建物中の別紙一覧表記載の部分及び洗濯場、炊事場、便所、廊下等の共同部分を占有することにより、原告に対抗し得る何らの権原なくその敷地である本件土地を不法に占有している。

(四)  本件土地の賃料相当額は、昭和三一年五月二一日から昭和三六年五月三一日までは一ケ月金七一七円、その後は一ケ月金八〇六円である。

(五)  よつて、原告は被告石垣に対しては、本件家屋の収去、本件土地の明渡及び昭和三一年五月二一日から右明渡済みにいたるまで賃料相当の損害金の支払いを、その他の被告らに対しては右各占有部分からの退去による本件土地の明渡を求める。

(請求の趣旨に対する被告らの答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

(請求原因に対する被告らの答弁)

原告が昭和三一年一月二一日国から本件土地の払下を受けその所有権を取得し、同年七月五日所有権移転登記手続をしたこと、被告石垣が本件土地上に本件建物を所有することによりこれを占有していること、その他の被告らが、それぞれ本件建物中の原告主張の部分を占有することにより、本件土地を占有すること、及び本件土地の賃料相当額が原告主張のとおりであることは認めるが、その他の主張事実は争う。

(被告らの抗弁)

(一)  東京都大田区馬込町東三丁目七三四番地宅地一七〇坪(本件土地はその一部である)は、大正二年五月二日訴外加藤幸蔵が家督相続により所有権を取得し、次いで大正六年九月七日幸蔵が死亡し、訴外加藤武三が家督相続によりその所有権を取得したものである。

そして、武三は右宅地一七〇坪のうち本件土地を含む一一〇坪を昭和二一年七月一日から期間の定めなく訴外篠崎実に賃貸し、同訴外人は、右賃借権にもとずき本件土地上に本件建物を所有していた。なお、原告は、右宅地一七〇坪のうち右一一〇坪以外の部分を昭和一五年三月一日武三から賃借したものである。

その後、昭和二二年六月二六日、武三は右一七〇坪の土地を賃借権付のまま財産税納入のため大蔵省に物納し、国がその所有権を取得し、賃貸人の地位を承継し、昭和二四年三月一八日所有権取得登記を経た。次いで訴外菊地敏郎が本件建物を競落し、昭和二四年七月二七日所有権取得登記をしたが、大蔵省はこれに対し何の異議も述べず、建物に附随する賃借権の移転を承認した。被告石垣は、昭和三一年五月二一日菊地から本件建物をその敷地一一〇坪の所有権とともに買受け、同日所有権所得登記をした。

原告は、その主張するとおり、昭和三一年一月二一日、国から本件土地を含む前記宅地一七〇坪の払下げを受け、同年七月五日その所有権取得登記をした。従つて、被告石垣が右菊地から本件建物の所有権移転登記を受けた昭和三一年五月二一日当時においては、本件土地の登記簿上の所有権者は国であつて、原告は未だその所有権取得を以て第三者に対抗できない状態にあつたのであるから、被告石垣としては、菊地から同被告に対する前記賃借権譲渡について、原告の承諾を得る必要はなく、国の承諾を得れば足りたものであるところ、国は、右賃借権譲渡について何の異議も述べず、少くとも黙示の承諾をしていたものである。従つて被告石垣は右賃借権を以て原告に対抗できるから、不法占有を原因とする原告の請求は失当である。

(二)  仮に、右賃借権譲渡についての承諾が認められないとしても、原告の本件明渡請求は権利の濫用である。すなわち、原告は前述のとおり前記宅地一七〇坪の一部について賃借権を有していたに過ぎないのに、本件土地を含むその全部について賃借権を有するものとして、大蔵省に対し虚偽の申告をし、縁故者の認定を受け、随意契約により、その全部について借地権価格五五パーセントを控除した価格(坪当り四二六円)で払下げを受けたものである。かかる原告が、前記賃借権譲渡について承諾を拒否し、被告(石垣)の賃借権を否認するのは権利の濫用であるから、被告石垣は右賃借権を以て原告に対抗できる。

(三)  仮に、右(一)(二)の抗弁が認められないならば、被告石垣は原告に対し、本件建物を、その時価二、一三九、三七五円で買取ることを請求し、その代金支払と所有権移転登記の同時履行を主張する。

(被告らの抗弁に対する原告の主張)

本件土地が東京都大田区馬込町東三丁目宅地一七〇坪の一部であること、原告が昭和三一年一月二一日国から右宅地全部の払下を受け、同年七月五日所有権取得登記をしたこと、及び本件建物について、訴外菊地敏郎から被告右垣に対し、昭和三一年五月二一日売買による所有権移転登記がなされていることは認めるが、その他の主張事実は争う。

(1)  仮に菊地が、被告ら主張のとおり本件土地について賃借権を有していたとしても、被告石垣が本件建物を買受けたと称する昭和三一年五月二一日当時においては、国はすでに原告に対し本件土地を売渡しているのであるから、菊地から被告石垣に対する賃借権譲渡を承諾するはずはない。従つて、被告らの抗弁(一)は、その主張自体失当である。

(2)  原告は昭和二四年二月一九日頃大蔵省の物納財産払下受託会社たる新郊土地建物株式会社から突然前記宅地一七〇坪全部の買取方を求められたので、原告の占有部分のみの払下ならば、これに応じたい旨を回答したところ、同会社から再三にわたり一筆(一七〇坪)全部の一括買取を求められたので、やむなくこれを承諾し、昭和二五年一二月二〇日代金を七三、〇〇〇円と定め、手附金を五、〇〇〇円支払い、残金は納入通知を受けた日から一週間以内に支払う約束のもとに売買契約を締結した。

ところが、その納入通知を受ける前同会社社員の横領事件が新聞沙汰になつたので、原告は納入通知の有無を問合わすため右会社に赴いたところ、関東財務局目黒出張所の直接扱いに変更されたということなので、同出張所に売買契約書及び領収証を提示し、その後の手続を求めたところ、払下価格を一一〇、〇〇〇円に変更され、昭和三一年一月頃残金全額を支払い、同年一月二一日所有権の移転を受け、同年七月五日所有権移転登記手続をしたものである。

右の事情に照すと、被告ら主張の権利濫用の抗弁は理由がない。

(3)  仮に被告石垣の買取請求が認められるならば、原告は、同被告に対する予備的請求の趣旨記載の判決を求める。但し、同被告の主張する時価相当額は、その場所的価値を算出するに当り、借地権価格を、一率に更地価格の約六割五分と見ているが、これは借地権の残存期間を考慮して定められるべきものであつて、本件建物の場合、高額に失し、不当である。

(証拠関係)<省略>

理由

原告が昭和三一年一月二一日、国から本件土地を含む東京都大田区馬込町三丁目七三四番地宅地一七〇坪の払下を受け、その所有権を取得し、同年七月五日、所有権移転登記手続をしたこと、被告石垣が本件土地上に本件建物を所有することによりこれを占有していること、及びその他の被告らがそれぞれ本件建物中の原告主張の部分を占有することにより、その敷地である本件土地を占有していることは、当事者間に争いがない。

そこで、被告ら主張の抗弁について、次のとおり判断する。

成立に争いない乙第一乃至三号証、第四、五号証の各一、二、第六乃至一〇号証、第一一号証の一、二、証人加藤武三、同飯沼一郎の各証言及び原被告各本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。

(1)  本件建物の当初の所有者は訴外篠崎実であり篠崎は、その敷地である本件土地について借地権(当時の地主加藤武三)を有していたところ、それが被告ら主張のとおりの経過で訴外菊地敏郎に譲渡され、被告石垣は昭和三一年五月二一日菊地から本件建物及びその敷地(本件土地)の借地権を買受け、同日所有権移転登記をした。

(2)  本件土地を含む前記宅地一七〇坪は、もと訴外加藤武三の所有であつたところ、被告ら主張の日に賃借権附のまま大蔵省に物納され、国がその所有権を取得したが国は、篠崎から菊地に対する本件土地の賃借権譲渡について、何ら異議を述べず承認していた。

(3)  原告は、右宅地一七〇坪の一部を賃借していたところから、その全部についての縁故者として、昭和三一年一月二一日随意契約により、全部について借地権価格控除の価格で払下を受け同年七月五日所有権移転登記をした。

右認定の事実によれば、原告は、本件土地上に本件建物(アパート)が存することを知悉しながら、縁故者として、借地権価格控除の価格でその払下を受けたこと、しかも被告石垣が本件建物の所有権移転登記を受けた当時においては、未だ原告に対する所有権移転登記は行われておらず、従つて原告は第三者たる同被告に対し、未だその所有権取得を以て対抗し得る立場になかつたことが明らかである。かかる事情のもとにおいて、原告が右借地権譲渡に対し承諾を拒むことは、信義則に反すると認められるから被告石垣は本件土地の借地権を以て原告に対抗できる。

又、他の被告らがそれぞれ被告石垣から本件建物中の各占有部分を賃借していることは弁論の全趣旨により明らかである。

よつて、不法占有を原因とする原告の本訴請求は失当であるから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺均)

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